アングラー:林 良一


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林 良一さんの記事
2010.6.30

〈林〉職漁船から学ぶこと

「獲物の生態や習性の研究に長年取り組み、沖で多くのデーターを集めた。獲物の視覚、聴覚、嗅覚、味覚。タコを模した塩化ビニール製の擬餌の中にティーバック式の墨を入れたアイデア。サンマ形の擬餌に浮力材をいれてバランスを取り、いかにも泳いでいるかのように作ってみた。擬餌に保護色の樹脂加工をして実験してみたところ、思わぬ釣果を上げた。五百枚の枝縄にすべて擬餌で縄入れしたこともあり、今でも他船と比較すると本船は擬餌の使用が多い。」

上記文中の獲物とはマグロのこと、高知県の土佐から出漁するマグロの遠洋延縄漁船での、ドキュメントを綴った「まぐろ土佐船 斎藤 健次 著 小学館文庫」からの抜粋です。

彼らの獲物はマグロですが、僕らの獲物はマルイカ、スッテの色をマルイカがどのように見ているのか、海水中でスッテの透過度を想像しながらのスッテ配列。より沈みがよく、マイクロマルイカの重みの違いも分かる、軽い引き重りのトップガン。自然度の多いブランコ、手返しの早い直結など等、ちょっと考えてみただけでも沢山の要素があるものです。                                                      

それに竿の調子や長さ、リールの性能、ライン等も加わり、環境という自然条件が加味してくるのです。

 

「生態や習性、沖で多くのデータを集めた・・・」

マルイカ釣りをするにあたり、マルイカの生態や習性を把握することは大切なことで、釣りの先輩や本、インターネットで資料収集等をし、こと細かくではなくても、大まかな概念を理解しておくことは大切だと思います。

沖で多くのデーターを集めること、それは船に乗ってマルイカを釣っているときのまさにそれであって、釣れ盛っているときはどうして今日は釣れたのか?どのような条件であったのか?                                他の釣り人よりも釣ったなら、それはスッテなのか?釣り方なのか?その比較対象には何が当たるのか?             釣れないときも同様、それにプラスして、その時の自分のメンタル面を振り返ってみたりするものです。

その日と過去の日の比較をしてみて、「これだ」というものを見つけて納得、理解できればしめたもの、次へ繋がる釣りといえるかも知れません。

 

先のマグロ船、一年以上の操業は珍しくなく、物語では足掛け3年、船上で3回の正月を迎えたとありました。

現場では過酷な労働条件、船主の莫大な支出、一回の操業で数億円の水揚げがないと成り立たない生業だそうです。

先のマグロのエサの研究で成果を上げた時など、その喜びは物凄いものであったことと思われます。

 

僕らは趣味としての釣りですが、一旦沖に出てしまえば、自分を信じその時の獲物の状態を推し量り、過去の経験の引き出しを総動員して釣りに挑みます。

一杯のマルイカに一喜一憂して笑ったり凹んだり・・・、でもまた翌週愛竿を車に乗せて、まだ真っ暗な高速を走り出して行く・・・。

 

命懸けのマグロ漁はハイリスク、ときとして命さえ奪われることもあるそうですが、遊魚船での釣りはそんなにリスクのない趣味の世界、だから思い切れるし、同船者に迷惑をかけないものであれば、夜な夜な一杯やりながら想像し考え出したことを、何度もトライできる場所ではないでしょうか。