〈林〉雨の日の釣り師のために
この週末は、大きな低気圧が日本海に入ってくる予報で、それに引っ張られるように南よりの強い風雨になるようです。そんな釣りに行けない日の釣り師に・・・
「雨の日の釣り師のために」は1980年にロンドンで出版された本を、釣りを愛した書家 開口 健 が再編して日本語版として出版された分厚い本なのです。今日のように高性能なレインウエアーが無かった時代、古の釣り師たちは、タイイング・デスク(毛バリ巻き専用机)越しの窓を伝う滴を見ながら、きっとウイスキーなど舐めながら次回の釣行に思いを馳せていたのでしょうか・・・
釣りとは、「糸の片方に魚が付いていて、もう片方に馬鹿が付いている」との喩えがあるように、「釣り馬鹿だね~」と哂われても悪い気はしないものです。
雨の日はあまり釣りをしなかったのか、こんなタイトルの本があるのですが、実際に竿を持ったり、糸を垂れずしてもできる釣りもあるものです。
仕掛け作りもその一つで、市販の仕掛けに飽き足らず、自分の経験が裏打ちされた工夫を随所に、それも一見簡素に見えるものの、さり気なく拘りを散りばめた仕掛けであるとか、ハリにハリスを結ぶこともそれに類することで、一本一本魂を込めるかのごとくのこの作業、個人的には大好きな釣りの一部なのです。
あるとき思い立ち、リールをオーバーホールして組み立てられなくなって冷汗をかいた経験はどなたにもあるかと思いますし、断腸の思いで竿のガイドを外し、調子をみながら用心深く削った後、今度はガイドを、寸分違わず真直ぐに付け直したりすると、たとえ仕上がりが悪かろうとも、その竿はもう、自分の一部のごとく愛でてしまうものです。
夜な夜な家族が寝静まった頃、チビチビ呑りながら磨きこんでいたそんなタックル達に目を細め、「よしっ」と、自分だけに聞こえる声で立ち上がり、心のうちで「今夜だ」と、目じりには楽しげな皺をつくり秘蔵のバーボンを出してきてしまう・・・ 天使が尻餅をついたような「ポン」という音に、立てた人差し指を唇にあて「シー」と・・・ 小気味よい音とともに、お気に入りのグラスに鎮座した琥珀色にそめられていく氷塊・・・ グラスをくゆらししばし見惚れ、芳香を楽しみながら唇を当てるときの至福・・・
って、ちょっとキザでしたが、こんなことも僕の中では釣りであり、これから手元にある「雨の日の釣り師のために」をまた紐解くのでした。